非上場株式(自社株)の相続税評価額は、「誰がその株を引き継ぐか」と「会社の規模」の2段階で評価方法が決まり、その違いだけで相続税が何百万円も変わることがあります。同じ会社の株でも、評価のしかた次第で税額は大きく上下します。
この記事では、20〜30代の個人事業主・中小企業の経営者の方に向けて、非上場株式の相続税評価のしくみを、専門用語をかみくだいて全体像から説明します。読み終えるころには、「自社株がどの方法で評価されるのか」「どこに気をつければ損をしないのか」の判断軸が持てます。
数字や制度は、国税庁タックスアンサー No.4638(令和7年〔2025年〕4月1日現在法令等)などの公的な一次情報にもとづいています(本記事は2026年6月時点で作成)。
ポイント
非上場株式の評価は、(1)取得する人が経営を支配する「同族株主等」か少数株主か → (2)該当する場合は会社の規模(大・中・小)、という順番で評価方法が決まります。この2段階を押さえることが、評価額を理解する第一歩です。
目次
非上場株式に相続税評価が必要な理由とは?
非上場株式には売買の市場がなく、株価が決まっていないからです。上場株式のように「市場価格」が使えないため、国税庁が定めたルール(財産評価基本通達)にそって、自分で評価額を計算する必要があります。
上場株式と非上場株式は評価のしかたが違う
上場株式は証券取引所での取引価格があるので、その価格をもとに評価します。一方、非上場株式(正式には「取引相場のない株式」=上場していない会社の株)は取引相場がなく、価格のものさしがありません。そこで、会社の財産や利益などをもとに評価額を計算します。
| 上場株式 | 非上場株式 | |
|---|---|---|
| 株価 | 市場価格がある | 市場価格がない |
| 評価の方法 | 市場価格などをもとに評価 | 財産評価基本通達のルールで計算 |
評価のルールは「財産評価基本通達」
非上場株式の評価は、国税庁の財産評価基本通達というルールにそって行います。誰がどんな会社の株を取得したかで計算方法が細かく変わるのが特徴です。くわしくは国税庁「No.4638 取引相場のない株式の評価」で確認できます。
非上場株式の評価方法は誰が取得するかで決まる
まず、株を取得する人が会社の経営を支配する「同族株主等」か、影響力を持たない少数株主かで、評価方法が大きく2つに分かれます。取得者の立場が違うだけで、同じ株でも評価額が大きく変わります。
同族株主等が取得 → 原則的評価方式(高くなりやすい)
会社のオーナー一族など、経営を支配する立場の人が取得する場合は「原則的評価方式」を使います。同族株主等とは、社長やその家族のように会社を実質的に動かせる立場の株主のこと。会社の本当の価値に近い金額で評価されるため、評価額は高くなりやすい傾向です。
少数株主が取得 → 配当還元方式(低くなりやすい)
経営に影響力のない少数株主が取得する場合は、受け取る配当金をもとに簡単に計算する「特例的評価方式(配当還元方式)」を使います。配当還元方式とは、1年間の配当金額を一定の利率(10パーセント)で割り戻して株価を求める方法で、一般に評価額は低くなります。
同族株主等が取得
- 原則的評価方式
- 会社の規模で計算方法が決まる
- 評価額は高くなりやすい
少数株主が取得
- 配当還元方式
- 配当金額をもとに簡単に計算
- 評価額は低くなりやすい
-
ステップ1:取得する人を判定
同族株主等か、少数株主かを確認します。
-
ステップ2:会社の規模を判定
同族株主等が取得する場合は、会社を大・中・小に区分します。
-
評価方法が決まる
取得者の立場と会社規模に応じて、使う計算方法が決まります。
原則的評価方式は会社規模で3つに分かれる
原則的評価方式では、会社を「総資産価額・従業員数・取引金額」で大会社・中会社・小会社に区分し、規模に応じて計算方法が決まります。どの区分かで、使う方式が変わります。
| 会社の規模 | 主に使う評価方法 |
|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準方式 |
| 中会社 | 併用方式(2つを組み合わせ) |
| 小会社 | 純資産価額方式 |
大会社は「類似業種比準方式」
上場している同業種の会社の株価をものさしにする方法です。評価する会社の「配当金額・利益金額・純資産価額(簿価)」の3つを比べて評価額を計算します。主に大会社で使われ、3つの方式のなかでは評価額が低めになりやすいとされます。
小会社は「純資産価額方式」
会社の資産から負債を引いた純資産を、株式数で割って1株の値段を出す方法です。会社を解散したときの価値に近い考え方で、主に小会社で使われます。
中会社は「併用方式」
中会社などは、類似業種比準方式と純資産価額方式を一定の割合で組み合わせて評価します。会社の規模に応じて、2つの方式のブレンド割合が変わるしくみです。
どの方式が使われるかだけで、評価額が数倍変わることもあります。会計検査院の調査では、類似業種比準方式による評価額(中央値)は、純資産価額方式による評価額(中央値)の約27パーセントにとどまっていました(会計検査院 令和5年度決算検査報告)。会社規模の区分が、そのまま相続税額の差につながります。
純資産価額方式の落とし穴|帳簿の額は使えない
純資産価額方式では、帳簿の金額をそのまま使わず、土地は路線価、建物は固定資産税評価額などに評価し直します。その結果、帳簿より評価額が大きくなり、相続税が増えることがあります。
資産を相続税評価額に「洗い替え」する
帳簿に載っている金額(買ったときの値段など)ではなく、相続税のルールにそって資産を評価し直します。たとえば昔安く買った土地が今は値上がりしていると、路線価で評価し直すことで「含み益」が表に出て、評価額が上がります。これが見落とされがちな落とし穴です。路線価は国税庁 路線価図・評価倍率表で確認できます。
含み益には法人税相当額38%を差し引く
洗い替えで生まれた帳簿価額と相続税評価額の差(評価差額)には、法人税相当額として38パーセントを差し引く調整が入ります。「もし会社を清算したら、含み益に法人税などがかかる」という考え方によるものです。
評価差額に差し引く割合
38%
法人税相当額(評価通達186-2)/2016年4月以後に取得した財産の評価に適用
注意
帳簿上は資産が少なく見える会社でも、土地や有価証券に大きな含み益があると、純資産価額方式では評価額が一気に跳ね上がることがあります。決算書の数字だけで「うちの株は安い」と判断するのは危険です。
評価額が変わる「特定の評価会社」とは?
株式や土地の保有割合が高い会社、開業まもない会社などは「特定の評価会社」とされ、通常とは違う特別な評価方法が適用されます。当てはまると、原則的評価方式に制限や調整がかかります。
株式保有特定会社・土地保有特定会社
会社の資産にしめる株式の割合や土地の割合が一定以上に高い会社は、それぞれ「株式等保有特定会社」「土地保有特定会社」と呼ばれ、原則として純資産価額方式で評価します。資産の中身がかたよっている会社が対象です。
開業後3年未満の会社など
このほか、開業して3年たっていない会社や、配当・利益・純資産の比準要素が少ない会社なども特定の評価会社にあたることがあります。自社が当てはまるかは判断が複雑なので、専門家への確認がおすすめです。くわしい区分は国税庁 No.4638を参照してください。
非上場株式の評価でよくある質問
Q. 自社株の評価額が高いと相続税はどうなりますか?
A. 評価額が高いほど相続財産が増え、相続税の負担も大きくなります。だからこそ、評価額を早めに把握しておくことが大切です。
Q. 評価方法は自分で選べますか?
A. 原則として選べません。取得する人の立場と会社の規模で、使う方法が自動的に決まります。
Q. 評価額を下げる対策はありますか?
A. 合法的な対策はありますが、専門的で会社ごとに最適解が異なります。自己判断は避け、税理士に相談しましょう。
Q. 自分で計算できますか?
A. 取引相場のない株式(出資)の評価明細書を使えば計算自体は可能です。ただし区分の判定や資産の洗い替えが複雑なため、正確な評価は専門家に任せるのが安心です。
まとめ|非上場株式の評価は2段階で決まる
非上場株式の相続税評価は、(1)取得する人が同族株主等か少数株主か、(2)該当する場合は会社の規模(大・中・小)、という2段階で評価方法が決まります。どの方法になるかで、相続税は何百万円も変わることがあります。
まとめ
- 非上場株式は市場価格がないため、財産評価基本通達のルールで評価する
- 同族株主等が取得→原則的評価方式、少数株主が取得→配当還元方式
- 原則的評価方式は会社規模で「類似業種比準・純資産価額・併用」に分かれる
- 純資産価額方式は資産を洗い替え、含み益には37%の調整が入る
実際の評価額の計算には、専門的な知識と詳しい財務データが必要です。自社株の評価が気になったら、早めに税理士など専門家に相談すると安心です。